研究目標

生体システム工学班では,人間のもつ「主観」や「感覚」といった曖昧さを含むものを表現する手法について研究を行っています.

一般論として,感覚器である五感を頼りに周辺情報を集め,過去に体験した経験や学習によって得られた知識からそれら情報を処理して,人の主観や感覚といったものが想起されます. ここでは,これら一連の流れを入出力システムとして捉え,主観や感覚をモデリングすることを目指しています.

人の主観や感覚を知るためには,人の状態を知る必要があります. ここでは,主に生体信号と呼ばれる人の体表面から得られる電気信号(筋電位,脳波など)を用いる方法,目で見て感じとることを模擬した画像(RGBカメラ,Depthカメラなど)を用いる方法,過去の経験を想定した記録データ(電子カルテ,人が記載した報告書など)を用いる方法を対象としています.

研究内容

1)筋活動電位を用いた筋評価の定量化と応用

筋活動に連動する筋活動電位(以下,EMG)を用いて,筋評価の定量化を行っています.EMGは比較的扱いやすい生体信号ではあるものの,個人毎に出力される信号が異なるため,個人内のみの利用に留めるケースが多く,汎用的な評価指標として使われこなかった歴史があります.そこで,EMGがもつ個人差を表現する“筋力係数”を研究室独自に新たに提案し,筋力係数と身体的特徴の関係を導出することで,筋力の定量評価を実現しました.

つぎに,筋を構成する筋線維ごとにEMGの周波数が異なること,および,各筋線維が働く際の代謝の違いに着目することで,“筋疲労時間”という筋疲労の定量化指標も新たに提案しています.これにより,筋自体が感じている疲労を評価することが期待できるため,トレーニングやリハビリにおいて疲労過多になることを防ぐことができます.

さらに,EMGを利用することで,身体の負担が少ない動作計画をEMGと人の関節トルクに関する最適化問題へ帰着させ,最適な(負担の少ない)動作計画を自動的に生成させる手法を提案しています.これにより理学療法士が行っている運動・行動指導を自動化できる可能性があります.

これらの研究の一部は,民間企業とともに現在社会実装を目指して共同研究を実施しています.

2)カルテ情報と看護師判断に基づく転倒リスクの推定

入院患者がベッドから転倒・転落する事故が医療機関では大きな問題になっています.それらを防ぐため,入院時のカルテに転倒アセスメントスコアシート(転倒AS)というチェックシートがあり,看護師が患者の様子を見ながらそれにチェックをしていくことで,転倒のリスクを評価しています.しかし,常に患者の側に看護師が居るわけではなく,転倒の危険性が高まったとしても看護師が気付くことなく,転倒に至るケースもあります.もし,その場に看護師が居れば,転倒ASに基づいて患者の体動や姿勢を考慮して転倒の危険性が高まったことを察知し,速やかに注意を促すこともできたはずです.

そこで,転倒ASのチェック内容に基づいて看護師が感じる転倒のリスク(曖昧さを含む判断)をファジィ推論で表現する手法を提案しました.また,ベッド上の患者の様子をDepthカメラで撮影してベッド上における姿勢を推定し,ファジィ推論と組み合わせることで,あたかもその場に看護師が居るかのように,リアルタイムに患者の転倒リスクの高まりをモニタすることができるようにしました.この技術を用いることで,自動音声による注意喚起や転倒リスクの高まりに応じて自動的にナースコールするなど,患者の安心安全に寄与することができます.

これらは,鳥取大学医学部との共同研究に基づき,鳥取県内の民間企業とともに実用化を目指し共同研究として実施してきたものです.

3)各種診断のための選別手法


Depthカメラの一種であるKinectから得られる骨格関節情報を用いて,簡易にロコモティブシンドローム(運動器に何らかの不安があり転倒しやすい状態のこと)の選別を可能とする手法の提案と検証を行ってきました.また,市町村の健康診断時に取得した疫学ビッグデータから,高齢者の骨折リスクを主成分分析およびクラスタリングによって選別する手法を提案し,歩行評価に必要な重要項目が何であるかを抽出し,歩行評価用デバイスの開発を進めています.

これらは,鳥取大学医学部附属病院および川崎医療福祉大学と合同で実験や検討を行いながら進めてきています.

その他,寝具に取り付けるシート状デバイスを開発して睡眠時無呼吸症候群の選別を可能とする提案,および,Depthカメラによる非接触な呼吸関連動作の抽出手法を提案しています.これらの一部は,過去に兵庫県COEプログラム推進事業として採択され,(公財)ひょうご科学技術協会,姫路医療センターおよび複数の民間企業と共同で実施をしたものです.

4)生体情報を用いた知的マッサージシステムの構築

一般的なマッサージでは,人が人に対して行う際に,指先で身体に接触しコリ具合いや骨格およびその間の筋肉といった身体構造を探りながら施術を行っています.一方で,マッサージチェアはあらかじめ決められたプログラムを選択し,プログラムに沿ってマッサージを行うものであり,近年では体格に応じて施術ポイントを修正する機能はあるものの,人の手によるマッサージを超えることはできていません.

そこで,マッサージチェア視聴者の身体への接触による状態把握と適切な指圧刺激の実現手法を提案してきました.具体的には,施療子(いわゆる揉み玉)の根本に設置した3軸力覚センサで皮膚筋系の弾性特性を推定し,施療子の押し出し量を制御することで指圧力を調整する手法,鍼灸師のノウハウをデータ化してそれに倣って制御する手法,使用者の脳波特徴量に基づきニューラルネットワークにて快・ 不快を推定しながら制御する手法を提案してきました.また,使用者の感覚に徐々に適合する繰り返し学習制御の実装とロバスト性を考慮したパラメータ調整手法,加速度センサのみで力覚を検出する力センサレス化を別途提案しています.

これらは,鳥取県内の民間企業と共同で実施したものです.

5)教育分野における個人や集団の集中度および雰囲気の推定


新型コロナを切っ掛けにオンライン教育が脚光を浴びています.いつでもどこでも授業を受けられるオンライン教育は大変便利ではありますが,その反面,遠隔にいる生徒の様子を詳細に知りえないことがあります.そこで,オンラインで受講している生徒の様子をRGBカメラで撮影し,その取り組みの様子から集中度合いを推定する手法について研究を進めています.これは,オンラインのみならず通常の集団対面授業でも有効で,授業中の集中度と教育内容の比較など,教師自身の学びであるOJTにも活用が期待できます.

また,通常の集団対面授業の様子を教室正面上部に設置したRGBカメラで撮影し,生徒個々人の集中度から教室内全体の集中度を知ることも可能であり,それを教室内の生徒らにフィードバックすることで,自身の振り返りにも活用できます.これは,特に小学校教育においては重要な要素と考えており,認知機能に影響を与える非認知機能の育成に繋ることが期待されます.

これらは鳥取大学附属小学校にご協力いただき,授業中の映像撮影や教師の感性といったデータ取得を行い,継続的に進めています.

ロボット制御班 / Intelligent Robotics(竹森准教授)

研究目標

社会に役立つロボットやその制御方法について研究しています.

研究内容

1) 複数移動ロボットの協調走行制御

近年の急速な少子高齢化や働き方改革といった社会変化に対して物流・搬送業務における人手不足が社会問題となっています.このような問題を解決する目的で本研究では,複数移動ロボット同士,または人とロボットが協調して隊列走行を実現する走行制御システムの構築に取り組んでいます.

このようなシステムは,物流における搬送作業の省人力や農業における収穫物の無人搬送の応用が期待されます.

2) RTK-GNSSを活用したモバイルロボット

RTK-GNSSとはリアルタイムキネマキック(Real Time Kinematic)位置情報受信システムの意味で,センチメートル級の高精度なGPS機能です.本研究ではRTK-GNSSを活用して,圃場における盗難防止のための巡回監視する移動ロボットの経路計画や経路追従制御の実装などに取り組んでいます.

3) 人工ポテンシャル場を応用したモーションコントロール

ロボットが障害物回避や旋回走行を最適に実現するための軌道生成法を研究しています.その軌道は「人工ポテンシャル場」という仮想の山や谷を配置した3次元関数から導出されます.本テーマでは,測域センサによりリアルタイムで計測される障害物や移動可能空間の形状を解析することで,その環境に対してどのようなポテンシャル関数が最適であるかを研究しています.

4) Robotics Technologyを応用した車いすの移動支援

(a)既存の車いすにアドオンする段差昇降機構とその制御法を提案します.この機構により車いすユーザーが単身で段差移動が実現できることを検証しました.

成果論文:竹森史暁: 外乱オブザーバを応用した高さが未知な段差を昇降可能な車椅子の開発, 日本機械学会論文集, Vol.87, No.895, pp.20-00376, 2021, https://doi.org/10.1299/transjsme.20-00376

(b) (a)の派生型として,車いすユーザーが単身で鉄道車両への乗降を可能にする機構も開発しています.

成果論文:竹森史暁:4自由度アーム機構をアドオンした車いすによる模擬気動車両の乗降検証, 日本機械学会論文集, Vol.91, No.944, pp.24-00244, 2025, https://doi.org/10.1299/transjsme.24-00244

研究目標

私達の身の回りには多くの家電が存在し,それらの中には多種のセンサとコンピュータ,そして通信ネットワークが組み込まれています.

いわゆるIoT(Internet Of Things)の時代となった今,それらのセンサ情報(環境情報)を統合・利用して,より住人の生活に密着したサポートが成し得るのではないか,というのがセンサネットワーク班の研究テーマです.

集めはしたものの曖昧で漠然としているデータの中から,深層学習等を利用した解析を通じて,住む人の動きや振る舞いを類推し,それに応じた家電のコントロールをする,等が考えられます. 身近な所で既に実現している物を上げるなら,ドアの自動開閉やロック,照明の自動点灯・消灯等がありますが,そうしたものをもっと高精度化・高機能化していきたいのです.

また,通常ではない=異常事態の発見と通報といった使い方も考えられます.ペットの見守りや,一人暮らしの老人の急病検知等を,特別な機器を用意する事なく,また,相手に「監視されている」という圧迫感や忌避感を与える事なく,既にある家電(とその中のセンサ)を連動させる事でできるようになれば,色々な事が楽に,あるいは幸せになる事でしょう.

また,解析結果は,それを誰かに伝えて初めて意味を持ちます.つまり,データの見える化や,アラートを出して伝えるシステム等の開発も視野に入れています.

研究内容

1) 人感センサによる住人の転倒検知

少子高齢化が進む日本では,独居老人の孤独死といった問題が多くなりつつあります.

転倒骨折から起き上がれず,助けも呼べない等のシチュエーションを考えると,なんらかの監視・通報システムが必要です.老人だけでなく子供やペットの見守りも同様でしょう.そして実際にそういった製品が開発・販売されているのですが,誰もがそういった「監視」を嫌がり,結局は設置していないというのが実情です. よって,監視カメラ等の心理的抵抗の高い物は使わず,今ある物・普段から使っている物だけから情報を引きだして異常事態に備える,といった仕組みを考えなくてはなりません.

一番最初に思いつくのが人感センサです.実は既に,照明の自動点灯・消灯やエアコンの運転モード切替等々,身近な所で多く使われており,また家電連動するパーツとしてPhilips製品やSwitchBot製品でも販売されている他,自作も容易で部品も安価です.

IoT化が進み,全ての家電群が連動できるようになった未来を想定しながら,現状は,別途作成した人感センサのノードを多く張り巡らされた部屋で,どのぐらいのレベルの転倒が,どのぐらいの精度で判定できるのか,またセンサ配置や解析手法によって差が出るのではないか,実験と検討をしています.

2) 省エネ対策等を目的としたスマートプラグ(多機能コンセント)

IoT化が成された最新型の家電であれば,API等を通じて通信やデータ取得ができる,また,GoogleHomeやAmazonAlexa等と連動し,音声での命令ができる,という時代ですが,世の中そんな新型家電ばかりではありませんし,またその制御は限定的です.

どの家電にも,は言い過ぎでしょうが,多くの家電(例え昔の家電であっても)に共通するもの,そして限定的であろうと有効で根源的な制御,というと,コンセント部分での電源のON/OFFになります.

昨今では「スマートプラグ」と呼称されますが,その名前が定着する前から、通電監視とその制御及び通信の機能を持ったコンセントアダプタの開発を行っていました.

各コンセント単体ではなく,屋内全体での監視や制御までを含めたシステムで,夜間の自動消灯や各PCの電源断,但し使用中かどうかの判定も行い,残業中のPCは残す,といった肌理の細かいコントロールを行いました.主に省エネを目的とした,大学オフィスでの実運用試験では,約20%の電気代削減に貢献しました.

3) バスの乗換案内システム

鳥取県下の各バス会社と連携し,各社から得られた多くの時刻表情報やバス停マップをデータベース化した上で,それを高速検索できる仕組みを構築し,更に,単に最寄りバス停とその時刻表の表示というのではなく,目的地までの路線乗り換えやその間の徒歩移動といったものまで含めた検索案内のWebシステムを一般に公開・サーバ運営し,2023年まで,多くの人に利用して貰っていました(概ね100アクセス/日という所でしょうか).

連携している会社のバスには,運転手席に専用のスマートフォンを設置して貰い,そのGPSを追跡する事で「今何処を走っているのか」「(雪や渋滞で)あと何分遅れそうか」等の表示もしていました.

今ではGoogleMap等がそうした機能の一部を持っていますが,Googleによる機能実装以前より実用化していた,バス会社との連携によるGPS追跡まで行っていた,スマホ時代以前から取り組んでおり駅への検索端末設置やガラケー対応をしていた,等が特徴としてあげられます.

現在は大学組織を離れ,全くの別会社によるシステム開発・運用となっていますが,研究例,そしてそれが実社会にて活用された例としてあげておきます.

2024年度

修士論文
卒業論文

2023年度

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  • 最終更新: 2025/04/01 07:12
  • by Seigyo-A